タイで博士号を取得したリサーチ・アドミニストレーターのブログ

タイで博士号を取得したリサーチ・アドミニストレーターのブログです。これから、学術研究、教育、科学技術で国際連携などの道に進んでみたいなと志す大学・大学院生へ、自分らしい博士人材キャリアの”創り方”のヒントになるネタをお届けします。

【タイで博士号No.2_3】タイ原産の資源を有効活用してエネルギーと環境問題の解決に貢献する研究

YES, I Could ! ~タイでも世界で役に立つ基礎研究ができたんです!

タイで論文になる研究ができるんですか?」、「 タイに留学ってボランティアにきたんですか?」 とか、なんとも失礼な話ですが、タイ留学中に会う日本人だけでなく、タイ人にも聞かれることがよくありました。今でも一つ印象的に覚えているのが、2002年ごろからタイの某大学(私が留学していた大学ではない)で確か客員教授として研究室を持っておられた日本人が、タイの研究環境の未整備さやら、教員や学生の質の低さやら、論文・ジャーナルに出せる研究はできないやらをご丁寧にまとめた長編の記事をタイへ留学する直前に参考にと送ってこられましたが、そこから何か新しいことを学ぶことはほとんどありませんでした。逆に、難しいと思われている場所で何とかやり遂げてやろうという気持ちがモリモリと沸いてきたのを思い出します。

 

さて、ここからはタイの博士研究について書き留めていきたいと思います。まずは、博士研究の背景・全体から。その次の記事くらいから、発表した論文と、その後のインパクトを追ってみたいと思います。

  

タイ社会(ローカル)にとってニーズが高い技術開発を研究テーマに選ぶ

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特に博士課程というまたない貴重な期間を、指導教官や他人から渡されたテーマをホイホイと機械的にこなして済ませるのは非常にもったいない。自分で調べて、考えて、そのうえで指導教官らと相談して、また考えて、絞り出してこれをやってみようと自分から思う研究テーマに着手できることが大切であると思います。タイに留学しているので、そこでわざわざ日本でもできることをやっても仕方ありません。タイ社会、ローカルのニーズに合致した技術開発に着眼することが面白いと思いました。

 

そこで、タイと言えばご飯がおいしい!? タイと言えば人口の6割が農業関係に従事している農業国です。お米にトウモロコシ、サトウキビ、様々な果物、ヤシなどバンコク市内から離れれば平地に農業地帯が広がっています。そこでは、食料の生産・製造プロセスの中で、食べることができない部分が農業廃棄物(バイオマス)として排出されます。

 

もう一つ、エネルギー面での特徴ですが、タイの一次エネルギー源としてタイ国産の化石資源への依存度が高いです。特に、タイ原産の石炭を利用して火力発電を行っています。そのタイ原産の石炭というのは、日本で使っている良質な石炭と違って、褐炭と言われる低品位な石炭で、水分量も硫黄分も多い困ったものです。タイ国内の発電量を安定にするためには、質は悪いが国産の燃料を利用する方が経済的にはよいが、周辺住民や、また地球規模での環境対策意識の高まりから、褐炭の消費量を抑制しつつ、安定的な発電を維持できないかという技術課題に直面しておりました。そこで、イ社会で多く生産?排出される再生可能な資源である農業廃棄物バイオマスを有効に活用して、褐炭の消費量を抑制する技術開発ができないかということに着目しました。

 

タイ原産の資源を有効活用する科学技術の研究に着目する

タイ原産の褐炭(低品位炭)と農業廃棄物(もみ殻、稲わら、トウモロコシの芯、サトウキビの絞りカス・・)を有効活用するためには何が分からないといけないのか?通常、個体の資源(燃料、材料・・)を発電に使うためには、ざっくりというと熱を加えて焼いて、水を沸騰させて、タービンを回して発電するというような流れが必要です。実験室レベルで、これらすべてを行うことは難しい。研究としてはどこにフォーカスするかが重要です。そこで着目したのが、物体に熱を加えたときに最初に必ず起こるプロセスを詳細に解明しようということに着眼しました。そのプロセスは通常、熱分解(英語でPyrolysis)と言います。ご家庭のキッチンなどでフライパンで肉や野菜を焼いたり、グリルで生魚を焼いたり、熱を加えたとき、その物資の中で熱分解が必ず起きております。それで、決めた研究テーマが;

 

Study of the Pyrolysis Characteristics of Thai Lignite and Agricultural Residues for Effective Energy Conversion

効果的なエネルギー変換プロセスのためのタイ原産褐炭と農業廃棄物の熱分解特性の研究

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基礎的な現象理解とモデル構築により普遍的(グローバル)に活用できる知見を得る

熱分解」というプロセスは、先ほど書きました通り、焼いた入り、蒸したり、燻ったりなど物質に熱を加えたときに最初に必ず起こります。空気中など酸素が含まれる空間で熱を加えていくと、燃焼というプロセスとなりますがその間でも物質の内部で熱分解が起きております。従って、対象物質が何であれ、その熱分解特性を丁寧にしっかり調べれば、その後の熱変換プロセスを効果的に開発するための貴重な知見が得られるわけです。このことは、要するにタイ原産の褐炭、農業廃棄物を対象とした場合でも、その基礎的な現象の理解や知見は他地域で生産される石炭、褐炭、農業廃棄物についての熱分解特性を理解するためにも参考となるわけです。加えて言えば、実験的なデータをつらつら報告というだけではなく、そこから、一般化されるモデル(熱分解モデル)を提唱できると、世界中の研究者にも活用して頂ける共有知となり得るのです。オリジナルの実験に基づき、実験データの解釈を進め、他の物質を対象に確立しているモデルに当てはめ、その結果を同分野の研究者にレビューして、これは確からしいと認められると論文・ジャーナルに掲載されます。

 

ということで、博士課程在籍中にタイ原産の褐炭と農業廃棄物バイオマスの熱分解特性を細かく調べて、国際ジャーナル・論文に3報と、国際会議で3回発表することができました。「Yes, I Could」です。投稿した論文は、2008年ぐらいから毎年、20件ずつぐらい世界各地の研究者の論文にも引用して頂いております。タイで実施した基礎研究が、10数年たった今でも、各地の先端的な研究の参考になっているというのは、うれしい限りです。 

タイの博士課程でも、自分でしっかり考えてテーマを選択し取り組めばJGSEEであれば論文は書けましたので、若い方にも是非チャレンジして頂きたいなと思います。

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