タイで博士号を取得したリサーチ・アドミニストレーターのブログ

タイで博士号を取得したリサーチ・アドミニストレーターのブログです。これから、学術研究、教育、科学技術で国際連携などの道に進んでみたいなと志す大学・大学院生へ、自分らしい博士人材キャリアの”創り方”のヒントになるネタをお届けします。

【タイで博士号 No.3_1】渋沢栄一著「論語と算盤」は今の博士人材こそ読むべき一冊

日本銀行券(1万円紙幣)のデザイン変更

日本銀行券(1万円紙幣)のデザインが2024年度から渋沢栄一へかわりますね。この先、何十年とデザインは変わらないことでしょうから、日本国内の多くの世代、特にこれからの若い世代の皆さんにとっては、渋沢栄一が遺された実学の精神というか、経世済民の実践哲学など早くから触れる良いチャンスが到来すると思います。大人においても、一万円紙幣が財布に入っていると嬉しいでしょう。新しい紙幣に変わったとき、例えば一万円紙幣を取り出して「渋沢栄一さんとは何をされた人なんだろう?」と考えるきっかけになるだけでも、経済的な豊かさを感じると同時に、人間的な豊かさとか道徳とかを再考する機会にもなると思います。今ではすぐに、お手元のスマホだとかパソコンで功績であったり、著書など検索することができますから、検索する動機にうまく出会うかというところが大切なのだろうと思います。今ならポチっとで、目的の本がすぐ届きますから。

www.mof.go.jp

 

さて、【タイで博士号 No.3】のシリーズでは、これまで学業や仕事を通じて困ったときや、また、うまくいったときなどに、助になった本やその本の一節をご紹介していってみたいと思います。その第一号としてご紹介するのが渋沢栄一著「論語と算盤」です。この本を手に取ったのは、比較的最近で4年前ぐらいに例のタイ・バンコクの行きつけの古本屋[Sun Book]で、いつもの調子で本棚スキャンをしていた時に見つけました。それ以来、座右の書のひとつとして仕事カバン(リュック)の中に入れて毎日、持ち歩いています。毎朝の日課としても、移動中の隙間時間などでも歴史的にも読み継がれている本を選んで一遍でも読むようにしております。こういう時によく読んでいるのも「論語と算盤」です。

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この本は、渋沢栄一の長い実業界で活動中に行った訓話をまとめたものですが、詳細な解説は、いろいろなところで紹介されているので興味のある方はgoogle先生に尋ねてみてください。ここでは、今の仕事を通じてこれは目から鱗だったなと思うポイントを三つ書き留めておきたいと思います。

 1. 義理合一の信念、仁義道徳と生産殖利は矛盾しないこと

これは、「論語と算盤」の中で一貫して仰っていることです。ちょうど私が20代のころから、グローバリズムが盛んになり、欧米先進国の英語圏を中心とする考え方が“ナウく(死語?)”、日本の伝統文化よりアメリカの英語文化が何となく盲目的に良い、チームの和、先輩後輩の絆より、なんでも個性、個性、個人主義が良いというような雰囲気が漂っていた時代でした。個人間の競争をさせて、少しでも前に出た人が「勝ち組」とか、出遅れた人は「負け組」とか。社会の雰囲気がそうだと矛盾や違和感を感じ悩みながらも、生き残るためには戦っていかないといけないのかなという気持ちになるものでした。(余談ですが、ダーウィニズム的な自然淘汰論の世界の雰囲気が創られていたようなイメージですが、私は今西錦司先生の棲み分け理論の方が私一個体としては合っていると思っておりますが、これはまた別の機会に・・)

 

20代、30代中盤まで上記のような違和感を感じながらも、タイへ留学して博士号をとり、京都大学ポスドク、特定助教で個人研究活動と同時にアジアでの環境エネルギー分野の学術ネットワークの運営に取組み、さて個人研究活動を突き詰めるか、もしくはプロジェクト企画運営の専門家(リサーチ・アドミニストレーター)のどちらの道をとるか。その時、地球規模の共通課題に対して貢献したいなと考えた場合、一つの専門技術・科学を深堀してその道で貢献するという手段もあるが、一方で既存の技術だったり、今後新しく研究開発される科学技術が繋がるようにすれば、よりスケールが大きい貢献ができるのではと考えてリサーチ・アドミニストレーターを選んだ次第です。その時にはまだ「論語と算盤」に出会っていなかったのですが、タイの古本屋でたまたま手に取って「義理合一の信念、仁義道徳と生産殖利は矛盾しない」という史実を教えて頂いたとき、大変な感動と目から鱗が落ちる思いでした。

 

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2. 趣味の考え方

「趣味を持って事物を処するということは、わが心から持ち出して、この仕事はかくしてみたい、こうなったから、これをこうやったならば、こうなるであろうというように、種々の理想欲望をそこに加えてやっていく(原文のまま引用)」とあります。研究者は趣味がそのまま仕事になっていいよね、と言われることがあり、「論語と算盤」を読む前は内心、「それがなにが悪い、趣味が研究です。スノボーも車の運転も興味ありません。。」と思うところがありましたが、趣味の定義を上記のように考えると、研究者に限らず、ありとあらゆる仕事に取り組む姿勢としてあると、前向きになるし、楽しく生産的になる考え方だと思います。

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3. お金に対する考え方

これも、「論語と算盤」の中で渋沢栄一が引用されている昭憲皇太后の歌で「もつ人の心により宝とも仇ともなるは黄金なりけり」です。これは、個人でも、集団でも、国でもということなのだと思います。例えば、現職であれば国の予算から大学での研究プロジェクト形成支援を行う上で、より多くの研究費獲得が評価されるという考えよりも、社会に役に立つように取り組みたい、そういった高い志がある研究者や同僚と仕事ができるということに優先順位を置くという考えを持つことができます。そして、お金ってそもそも何なのか?ということに関しても勉強してみようという動機にもつながりました。幸いにも、著者である渋沢栄一が一万円紙幣の顔になりますから、今後も学術研究支援を行う生産性を高めて、付加価値を生み出せたときに所得を得ることにつながったならば、その都度、「もつ人の心により宝とも仇ともなるは黄金なりけり」を思い出したいと思います。

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 これからの博士人材の中から、義理合一の信念があり、仕事に趣味を持って、お金に対する覚悟を有した人材として社会で活躍される方が増えていくと良いなと思います。なんと令和の時世に古臭いことを言うなと感じる方もおられるかもしれませんが、渋沢ご本人も大正の時代に、「論語」などいうと古臭いと思われるがと述べている・・。なんせ、2000年ぐらい前から沢山の人に読み継がれてきたものですから、起源は古いということは事実だと思いますが、それだけ長い間の歴史を経て読み継がれているという事実は、その時代時代の人に”古くからある”新しい気づきを与えてくれるのだろうと思います。

 

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